タチバナの、合理的なまいにち

将来について迷走する女子大生。テクノロジー、本、漫画が好き。

【解剖実習】ヒトを解剖するということ 過酷といわれる解剖の実態をお見せします!

医学部の学生には、「解剖実習」があります。
大学に申し込みのあった献体を医学生が解剖させてもらうのです。 解剖とは、一般の人はすることができません。 医療従事者かそれに準ずる人だけが、医学の発展や学びのためにできることなのです。 めったにないありがたい機会です。


しかし、その解剖について医学部外の方に語られることはほとんどありません。 やはり人間を解剖させてもらっている以上、大声で言いふらすことでもないでしょう。

私は滅多にないことだからこそ、
医学部外の人にも知ってもらいたいと思います。 なにせ同じ人間の体のことなのですから。


それでは、医学生が見た解剖実習のすべてをどうぞ!

実習中の服装

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白衣の上に、前掛け(ビニール製)アームカバーを着用します。 これがないと、白衣がとても汚れます。 帽子着用なのですが、これが死ぬほどダサくて初日以降かぶっている人はほとんどいません。

必要なものは、
解剖セット(9000円)
解剖の手引き(8000円)
で、各自購入して解剖にそなえます。

しかしこれがかなりの出費となるので先輩からのお下がりをもらうことがほとんどですね。

解剖の部屋

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解剖実習は4人ひと組になって行われます。 四人で数ヶ月かけてご遺体を隅から隅まで解剖していきます。

解剖実習中の雰囲気は、ずっとピリピリした空気というわけではありません。

学びのために真面目に実習しているのですが、班のメンバーと世間話をしていることもあります。 簡単な作業の時は、和気あいあいと解剖をしていることもあります。

この間は、ゾロアスター教の教義について班員の男の子とお話ししていました。 (やはり医学部!変わった男の子が多くて楽しいです)
しかし、集中して部位を探しているときなどは、自然と各自黙って解剖をしています。

「ヒトを解剖すること」の心のつらさ

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「ヒトがヒトを解剖する」なんてめったにあることではありません。 実際解剖を経験するまでは、正気の沙汰じゃない、と思っていました。

しかし断言させていただきます。
間違いなく慣れます。

手術を見て気絶した男の子も、ネズミの解剖で泣き出した女の子も
バリバリ解剖しています。

私も初日は不安と緊張でいっぱいでした。

遺体保安室から解剖台にご遺体を移す瞬間の重みは今でも忘れられません。

「ひ、ひとの重みだ...」

日常、死んだヒトを見ることはなかなかありません。 それなのに解剖の部屋には20人ものご遺体がずらりと並んでいるのです。

しかしひとたびメスを入れると、恐れるものではないと気づきます。 医学部生が「異常」だから解剖ができるわけではなく、ほぼどんな人でも慣れるな、と感じました。

死をそばにあるものとして感じる


ヒトは死ぬ。
それは人間が生き物である限り避けられないことです。 ですが、日々生きていて死について考えることはほぼありません。 ふとした瞬間に考えることがあったとしても、なんだか現実味がない、そう思いませんか?

しかし、解剖をすると気づきます。
ヒトは死ぬし、死んだら元に戻らない。

それはあきらめのようなものではなく、ただ事実として感じたことでした。 今まで何度か死について考えたことはあったものの、こんなにフラットに「死」を受け入れることができたのははじめてでした。

・死んだら意識がなくなってこの世界を認識することは二度とできない
・死後直接世界に影響を与えることができなくなる

そう考えては恐ろしくなり考えるのをやめる、という繰り返しでした。 でも今は前とは少し違います。

確かに死はこわい。 こわいけれども、ヒトは死ぬし、死んだら動かない。

こんなことを思う機会もなかなかないでしょう。 解剖実習の思わぬ副産物でした。

解剖実習のつらさの実態

さてここまで、心のしんどさや死んだヒトを解剖するということについて触れてきました。
意外と精神的なつらさはそこまでないということ、をわかってもらえたと思います。

では実際の解剖のなにがキツいのか、ということについて説明していきたいと思います。

腰が痛い

f:id:nodanodayu:20181017104129j:plain シンプルに腰が痛いということ。
基本的には解剖台のそばにある椅子に座って解剖をすすめるのですが、体の部位によってはどうしても立って解剖する必要が出てきます。
そのときの腰のつらさは言葉になりません。

気絶するほど、と語られるニオイの実態



解剖はホルマリンの臭いがキツすぎてそれだけで倒れそう、解剖で着た服には臭いが染み付いてとれない。 など、恐怖体験のように語られる解剖実習の臭い。
私も初日はビビり倒して、マスク二枚重ねで挑みました。
でも、あれ?
想像より全然くさくない!

そうです!現在解剖台が進化して、ホルマリンを吸収するパイプみたいな装置が横についており、それにより臭いが軽減されています。 我が班の班員も現在はマスクをせずに実習をしているヒトが4人中3人です。 確かに、服に臭いはつきそうですが、洗えば落ちる程度のものです。
よって敵は臭いではありません。

真の敵は.......!

体力がもたない!



解剖実習においていちばん辛いのが体力です。
実習が長丁場に及ぶこともあり、最長朝10時から夜8時まで解剖をしていたこともあります。

そのときちょうど、私の入っている部活動も忙しく、その日は帰ってきてからしんどすぎて少し泣きました。

解剖実習は集中を必要とします。 集中し、腰を折り曲げ、何時間も作業すると本当に本当にしんどいのです。

早く終わる班は5時くらいに帰っているのに、なぜか終わらないうちの班。 全員真面目にしているのに、終わらないうちの班。
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体力的なしんどさから、精神にもきます。

集中して探しているのにもかかわらず、全く見つからない部位。 ふとした瞬間に集中が切れて、我に返るのです。

わたし、華の20歳、女子大生のはず。 なんでこんな日の当たらない部屋で、大腿骨を切る音を聞きながら足裏解剖してるんだろう。
脳内再生されるSHISHAMOにうきうきしながら、男の子と遊んだりしなきゃいけないんじゃないの。

そう思うと、あまりの悲しさに立ちすくみます。 ああ、こんなはずじゃなかった、と。

解剖実習ができることに感謝


しかし、解剖実習は全ての医学の基礎であり、とても大事な実習です。 本で見ただけではわからないことだらけでも、解剖をするとクリアに理解できます。

ヒトの体って本当によくできているなぁと思わずにはいられません。

解剖学の祖であるジョンハンターは死体の数が足りずに、葬儀業者にお金を握らせて墓堀をさせていたそうです。
そして、夜な夜な秘密裏に解剖を行っていました。 家には、表通りと裏通り二つの玄関があったそうです。 表は妻の社交界の友人や患者が出入りし、裏は解剖教室の学生の出入りや死体の搬入出のための玄関であったと伝えられています。

現在は制度が整えられ、学生でも解剖学の実習ができます。 これは、本当にありがたいことなのです。

解剖実習は、医者になってもなかなかできる機会がありません。 2年生に一度きりの解剖実習をおろそかにせずしっかり学習していきたいと思います。


私の大好きなまんが医学の歴史! この記事に出てきた、外科医学の祖ジョンハンターも登場します。

医学に興味を持ったことがある人なら、楽しく読めること間違いなしです。